親方様はとても器用な方で、それを自慢したりはされないので知る人は少ないけれど金属を溶接して小さな細工物を作ったり、柔木に彫刻を施し美しい日用品を作ったりを趣味としていた。大きな内部抗争の後始末のため9代目の邸宅に停留することが多かった頃の話だ。
 一瞬前までは何の形も存在してなかった空間が親方様の大きな手によって如実に変わってゆくのを、自分とオレガノはため息交じりに見つめていた。オレガノがどうだったか知らないが(そもそも彼女とは年が近い割りに話をすることは少なかった)いつもの親方様の豪胆さとは不似合いな繊細な指の動きは、自分の目には魔法のように映って、その手で猫や犬にするように頭をなでられると、自分の頭の中もあんなふうに一瞬で作り変えられてしまうのでは、と恐怖を感じることもあった。
 親方様は魔法の最中、よく話をしてくれた。そのほとんどが海の向こうに残してきた人達のことで、親方様はいつもその人達を褒めた。親方様の魔法の産物もその人達のためのもので、出来上がった美しい細工物は丁寧に梱包されて、その日のうちに海を越えて行った。
 けれどある日、どういうめぐり合わせか、オレガノと自分に1つずつ親方様がつくった物が渡された。オレガノには花と鳥を掘り出した蓋の裏に鏡がついた木箱を。自分には白木で作ったゼンマイ仕掛けの車の玩具を。
 オレガノはひどく喜んで何度も親方様への感謝の言葉を口にし、木箱にはアレを入れますコレを入れます、と報告していた。自分は、というと頼りない自分の手に乗った繊細な玩具が恐ろしく(なにせそんな子供らしい物を手にしたのは記憶にある限り初めてでしかも親方様手ずからの贈り物だったのだ)もし壊してしまったら、失くしてしまったらと思うと涙ぐんでしまい、手に乗せておくのすら正気の沙汰でではなかった。けれども手放せず、そのまましゃがみこんでしまう。
 「バジル?」と自分のコードネームを呼ぶ親方様の声。そしてうなだれっぱなしの自分の後頭部に優しく置かれた大きな手のひら。「ああ、ツナも丁度こんくらいかな」と呟いた親方様の、聞かなくても意味のわかる自分の心。途端に頭の中に思いカーテンがかかったような気がした。
 親方様はその手で自分の頭の中を作り変えてしまったのだ!やっぱりそうだ、そうとしか思えない。自分達は魔法使いに師事していたのだ。
 あの時の自分はまだ他人を羨むだとか妬むだとかそういう感情に縁がなく、親方様の言葉を皮切りに腹の底でひそひそ足音をたて始めた暗い欲望に名前がつけれずさまよっていただけなのだけれど。

 あの玩具はもらったその日にダンボールに厳重に包み、アジトの北舎の床下貯蔵庫の中にある。
 あれから一度も開けてはいない。





魔法使いの弟子  REBORN! 20070309